去りゆく技術者

会社で仕事をしていて辛く感じることの一つに、長年一緒に仕事をしてきた仲間の離職がある。個人や家庭の事情などいろいろ理由はあるようだけど、個人的に話を聞いてみると、技術者として会社の置かれている状況や自分の立場を分析して苦渋の結論を下していることが多い。もちろん「給料を上げて欲しい」という要望を受けても私にはどうすることも出来ないけれど、お金に対する不満を言う開発者は意外にもほとんどいない。

むしろ、「コロコロと変わる経営方針に愛想が尽きた」「成果主義と言いつつ成果を出した人が報われていない」「技術的にやり甲斐がある仕事を任せてもらえない」等々、技術者へ確固たる方針と青写真を示せていないマネジメントへの不満が大きいようだ。「この環境では自分の技術力を磨けない」と言うくらいの覇気のある人なら、次の環境で頑張れと笑顔で送り出せるけれど、組織の問題を訴える人に対して現場の人間に出来ることはあまり無いのが実状だ。優秀な技術者が組織の問題を訴えているのに、その主張に耳を貸そうとしないマネジメントの問題は大きいと思う。

そんな事を考えつつ日経ビジネス2010年8月30日号の特集記事「敗れざる者たち:不屈の技術者魂」を読んだ。技術者が会社から冷たい仕打ちを受けても、信念を持って開発に邁進する姿が描かれていて、少し前のプロジェクトX風のストーリー展開になっている。取り上げられているのはいずれも成功した方ばかりなので雑誌の特集として悪くはないけれど、いずれも資金や研究の援助が得られず苦労した人ばかりだ。本音は「大企業では技術に没頭できる環境がある。技術者の思いをきちんと汲み取ることができれば、人材は流出しない。私だって、まだ東レにいたはずだ」(デュエラ社長西林利弥氏)という処なのだろう。

技術者「だけ」を特別扱いせよとは言わないけれど、もう少し長期的な視点を持って明確なビジョンを示し、技術者が進むべき方向を提示できないものかと思う。「○×なら出来る」「△□を実現する」という提案をするのは技術者の仕事だが、その最終的な決定を下すのはマネジメントの責任だ。迅速に然るべき判断を下せないのなら、それはマネジメントの力不足と思わざるを得ないし、誤った判断を続ける経営に対して技術者が異議を唱えるのは当然のことと思う。

なお、最近の技術者が転職する会社は必ずしも日本(日系)とは限らない(意味は分かりますね)。そんな状況を見ていると、諸外国の技術が向上して日本に追いついたと言うのはほんの一面であり、実際のところは日本企業が一人で失敗を重ねているようにも思える。技術の進歩を見通している技術者に愛想を尽かされた国の未来は暗いと思う。



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