チームのためにナンバー2を育てよ

開発の現場では毎日様々な問題が発生するし、対外的な打合せや非定型業務、割り込み作業も多くて、リーダと言えども、開発チームの進捗状況を必ずしも全て把握出来ているとは限らない。自分が逐次作業指示を出してメンバを動かすのが仕事とはいえ、指示を受けないと自ら動いてくれないという人はいるし、各作業間の優先順位付けや方針を決めるのはやっぱりリーダの判断に基づくものだから、どうしても自分の存在が不可欠になってしまう。

そんな時に考えるのが「自分がもう一人欲しい」という願望だったりする。決して2倍の仕事量をこなしたいという意味ではないのだけど、自分自身の仕事を進めつつも、チームの面倒を見ることが出来るのなら、それは有り難いことだ。何と言っても判断するのはあくまでも自分自身だから、期待通りの結果に導くのは容易なはずだ。他人任せにしたばかりに、予期せぬ結果になってしまったという悲惨な状況を避けられるのはかなり嬉しいことだろう。

とは言え、そんな浮世離れした夢を見ているばかりでは仕方ないので、我に返って現実的な対策が必要になる。最近感じているのは「チームの成果を出したかったら、人を育てるのが手っ取り早い」ということだ。もちろん、リーダ未経験者に白紙の状態で「プロジェクトを管理せよ」なんて言うのは無茶な注文だけど、今までのやり方や経緯、参考情報や資料へのリンクを伝えて、手本を見せつつ課題を一つ一つ出していくようにすると、期待以上にやってくれるメンバが多いと気がついた。

これはなかなか嬉しい状況だ。一日中会議に追い立てられて夕方になってようやく自席に戻った時、日中に発生していた問題に対処して既に片付きました、という連絡をもらうのは喜ばしいことだ。少なくとも、問題が発生したけどどのように対処すべきか分からなかったので戻ってくるのをずっと待っていました、と言われてガッカリするよりはずっと有り難い。自発的に動いて判断できるメンバが、自分の代わりにナンバー2として動いてくれることで、チームの作業スピードは更に向上するし、チームとしての組織力が一層強くなるように思う。

昔、「次世代のリーダを育てるのがリーダの仕事」と言われたことがあるが、どのような情報をどのようにして伝えるべきなのか悩んだことがある。OJTという名目で仕事のやり方を逐次教え続けるのなら、それは伝統芸能を口伝えで教えていく古き文化と何ら変わらないような気がしたからだ。ところが、今の開発チームには技術を伝え残すための武器が幾らでも有る。例えば、TracRedmineには、過去の作業実績やトラブル事例、メールのやり取りや打合せ議事録、プロジェクトの実績(ふり返り)など、その類の情報が満載だ。そのような「見える化」された情報を参考にすれば、自分が何をすべきか明らかだし、トラブルにどのように対処すべきなのか参考になるはずだ。

もちろん、人には向き不向きがあるので、誰でもそのように育つとは限らない。でも、ある種の方法論を使ってノウハウを伝えることさえ出来れば人は容易に育つものだし、日頃から技術伝承を考慮しつつ業務を進めていけば人を育てる環境は自然に出来上がるのだと思う。

しかし、わたし達の社会では、マネジメントの上手下手はまったく属人的なものだ、という思想が強い。その結果、マネージャーの地位は、学歴・年功序列・出身等により選ばれることが多い。マネジメントは、「地位に付随する権能」 であって、前もって研修・訓練が必要な技術と考えられていない。日本では残念ながら、「マネジメントにも技術がある」という概念が希薄なのである。

『知的マネジメントの技術』のすすめ : タイム・コンサルタントの日誌から