「格下」のライバルから学ぶ本「危機の経営」

一昔前なら海外の空港や繁華街には必ず日本の電機メーカーの大きな看板が掲げられていて、そのディスプレイを見る度に、特にそのメーカーの熱烈なファンという訳でもないのに少しだけホッとしたような気分になることが多かった。きっと、日本から遠く離れた異国の地で日本という国を感じられるからなのだろう。残念なことに、最近ではそんな日本企業の看板もかなり減ってしまい、代わって増えたのが韓国の電機メーカーの看板だ。何処に行っても見かけるSamsungやLG Electronicsのディスプレイに、日本という国の衰退を象徴するような印象を受けてしまう。

国内電機メーカーの業績が思わしくない一方で、韓国の電機メーカーの躍進が著しい。日本の技術者を取り込んで技術を盗んだとか、日本企業の研究を徹底的に行なったとか、ネガティブな面が強調され過ぎるせいで家電量販店に入っても製品はあまり見かけないけど、その存在感は日本を除く世界では圧倒的だと思う。そんな会社を躍進させた原動力は一体何なのか?という点をずっと疑問に思っていたので、元サムソン電子常務の吉川良三氏の著書「危機の経営」を読んでみた。

1990年代後半の通貨危機を契機として強烈な危機感を持ったトップの号令の元、組織が大きく変わっていく姿が当事者の視点で描かれており、なかなか興味深いものがあった。もちろん、開発手法や対象機器がデジタル世代に移行する時期に上手くあたっていた等、タイミング的に良かった面は有るものの、それは日本のメーカでも同じ条件だったはずだ。好機を見逃すことなく、企業を支える人材にも積極的な投資を行い、会社の姿を大きく変えていったストーリー展開は出来すぎの感すら有る。

不思議なことに、欧米の企業に比べて近隣のアジア諸国の企業を「格下」と見なしてしまう人が少なくないのだけど、そのような先入観を持ってしまう時点で既に負けているようにも思える。その昔、海外の会社の強さを研究し、優れたところを貪欲に取り入れていた日本人の学習能力や吸収力は一体何処に行ってしまったのだろうか。そんな感想を持たざるをえない本だった。

危機の経営 ~ サムスンを世界一企業に変えた3つのイノベーション

危機の経営 ~ サムスンを世界一企業に変えた3つのイノベーション

なお、光があれば影も有るのが当然のこと。激しい出世競争や年齢を重ねるにつれて社内で生き残っていくことが難しくなる現実は、(上記の本ではあまり触れられていないけど)雑誌の特集記事にはよく載っている。おそらくどちらも嘘偽りのない事実なのだろう。競争相手に対する理解を深めた上で、自分なりの判断を下して行動することが必要だ。今の時代、何も判断しない、行動しないという結論は、実は致命的ではないかと感じている。

日本の電機大手をシェアと収益力で圧倒する韓国サムスン電子。強みは「逆張り投資」「マーケティング」「オーナー経営」とされる。しかし、後発で参入しても勝ち続けられる原動力はほかにもある。情熱を持ち、不可能はないと信じ、必死で戦略を実行する社員だ。かつて日本が得意とした「理念を叩き込む経営」をサムスンは重視する。社員が持つ能力を徹底的に引き出して、活用する仕組みを解剖する。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100701/215226/