仕事の幅を広げるのは自分の責任

会社で開発の仕事を続けていると、どうしても知識に偏りが出てしまう。仕事で使うからという理由で専門知識が増えていくのは有り難いことだとは思うけれど、だからと言って専門家として書籍を書ける位に深い知識が身に付くわけでもないし、新しく開発した技術を特許として出せるものでもない。せいぜい、APIをたくさん覚えたので一連の処理は素早く作れるとか、ドメイン知識が深まったので開発対象を容易に理解できるようになったとか、仕事のコツが分かったので素早く回せるとか、その程度であることが多い。

これは確かに大切なことだし、会社から求められる責務を果たしているとは思うけど、この変化の激しい時代に昔の技術にしがみついているのは、技術者として或いは組織としてかなりリスクが高い気もする。例えば、以前なら苦労して自分で作っていた機能が、最近のフレームワークを使えば簡単に実現できるようになっていることが珍しくない。宴会の席で昔の苦労話を自慢げに話すベテラン開発者の周囲を、そんな話に興味のない最近の開発者が白けた雰囲気で取り囲んでいる様子を見ると、技術の進化とは実に冷酷なものであると感じたりする。

技術者として深い専門知識を持つことは不可欠であるけれど、同じ程度に守備範囲の幅を広げる努力も必要ではないかと思う。「xxについて教えてくれ」と尋ねられて「何も知りません」とゼロ回答をしなければならないのは、技術者としてかなり辛い。せめて「詳しいところまでは知らないが、xx程度までなら分かる」程度の回答はしたいものだと思う。そのためにも、常日頃から技術書を読んだり、雑誌に目を通して技術の流れを掴んでおいたり、自分の専門外にも積極的に手を伸ばす努力が欠かせないのだ。

不思議な事に、組織の中で他の人から多種多様な相談を受ける人は、実は優秀な技術者であることが多いようだ。おそらく語学の達人が1つの言語習得で得たノウハウを使って次の言語を学ぶように、優れた技術者は専門知識を深める過程で得た「知識習得のノウハウ」を、他の分野でも同じように使っているのではないかと思う。そうやって得られた知識を活用することで、周囲の期待に応えると同時に、技術者としての信頼も得ているようだ。自分の専門や得意領域にこだわるが故にかえって身動きが取れなくなってしまった技術者の姿を見ると、意識的に守備範囲を広げていくことの重要性を深く痛感する。言われないから何もやりません、という姿勢はかなり危ういと思っている。