人材育成という幻想
組織が一個人の人生を越えての存続していくためには、組織に属する人のスキルアップが欠かせない。優秀な人材が揃えばこそ組織は存続できるのであり、その基盤が強固であればあるほど組織の競争力に繋がるはずだ。だから、組織的な学習は欠かせないし、技術伝承の取り組みは不可欠だと思う。
しかしながら、現実はそんなに甘くない。長期的視野に立った活動というものは軽視されがちだし、いつ役立つのか分からない活動なんかよりも、目先の利益を重視するのが最近の流れだ。「費用対効果」という便利な言葉が出てきたおかげで、活動の成果を「数値化」出来ないものは悉く却下されるようになってきたし、そもそも人材の能力開発に対する組織的なサポートも減ってきているような気がする。
こうなると、人材育成という言葉はいずれ死語になってしまい、スキルアップを図るのは全て「自己責任」という時代になってしまうのではないだろうか。組織にとって面倒なこと、厄介なこと、面倒なこと等は全て各個人に委ねられてしまうのかも知れない。でも、そんな組織がいつまでも生き残っていくことは可能なのだろうか。
...とそんな事を考えつつ、協力会社から来てもらっている開発者にRedmineでのタスク管理の方法を教えていた。彼曰く、OJTの名目で現場に回されて来ているものの、組織的な学習の機会は与えられていないそうで、チケット駆動開発のやり方を初めて教えてもらったとえらく感謝されてしまった。特に変わったことをしている訳でもないし、書籍に書かれていることを参考に自分なりの経験を加味して教えた程度のことだったけれど、その程度の教育すら受けていない彼が少々気の毒になってしまった。
仕事の上で知っていることを隠すこと無く全て教えてしまうのは、私の仕事の進め方の基本ルールの1つだ。知識を他人に教えたからといって自分の知識が減るわけでもないし、自分の存在感が消え失せるわけでもないし、それどころかチームの作業が効率化されることによるメリットは結局リーダの自分の方に巡ってくるのだ。組織の長期的な存続とか、成果主義に関わる厄介事は別にして、身近な開発者のスキル向上に繋がる支援が出来ているのなら、少しは自分の責務を果たせているのかも知れないと思っている。