JaSST'11Tokyoに参加してきた

少々遅くなったけど今週はJaSST'11 Tokyoに参加してきたので、その感想を簡単にまとめておきたい。久しぶりのJaSSTなのでかなり期待していたのだけど、会場での予稿集配布は無し(Webからのダウンロードのみ)、事例発表のセッション数は以前に比べて大きく減っており、世の中の景気の悪さを如実に示すようなイベントだった感じがする。

受講して来たセッションの中で特に良かったものは下記の通り。

欠陥エンジニアリングの重要性と欠陥メタ情報の定義/管理(細川宣啓さん)

今回のJaSSTの中で一番面白かったセッション。細川さんの話は何度か聞いたことが有るけれど、今回もまたバグのデータベース化という非常に野心的な取り組みに関する内容だったので大いに興味を惹かれた。

  • ソフトウェア業界を医学業界と比較してみると、医学には病気に関するあらゆる情報が集められたデータベースが存在して誰もが同じ理解、治療が出来るように整備されている。
  • これに対して、ソフトウェアではそのような統一されたマスタ情報が存在せず、品質評価作業で見つかったバグがその場限りの情報で終わってしまっており、他のプロジェクトで活かすことが出来ていない。
  • だからこそ、欠陥の本質的な姿を明らかにしてその実態を学ぶことにより、より効果的な対処方法を考えられるのではないか。

講演の中では実際のデータベース情報の一例が紹介され、一事例を書き上げるのに論文一本書く位の手間がかかるとの説明も行われていた。個人的にはBTSから取り出したバグ情報を抽出して分析したことがあるけれど、これはソースコードや担当者に情報を求めたりして見かけ以上に大変な作業であることが実感として分かっているので、もの凄い手間のかかる作業であることは容易に想像できる。それでもデータベース作成に取り組む!と断言していたのだからつくづく凄い方だと思う。タイミング良く(と言うか悪く)「失敗知識データベース」はサービス終了になってしまうそうだが、これに代わる形での次世代のデータベースとなりソフトウェア工学全体の発展に寄与することを期待したい。

科学技術分野におけるさまざまな失敗事例を紹介し、その原因から対処方法までを識者が丁寧に解説してくれる「失敗知識データベース」。独立行政法人科学技術振興機構JST)が2003年から運営してきたこのサイトが、3月31日をもってサービスを終了するのだという

【やじうまWatch】科学技術分野の失敗事例を集めた「失敗知識データベース」がサービス終了 ほか - INTERNET Watch Watch

ソーシャルアプリケーションのテスト法(山本健さん

ソーシャルアプリなんて触ったことすらないけれど、その開発の舞台裏は気になるところだ。ソーシャルアプリの開発は何が特徴で、どのような工夫が行われているのか開発者の実感のこもった説明が行われた。

  • ユーザを引き止めるため、通常のWebアプリケーションよりも高い頻度でバージョンアップを行う必要があるのに、ユーザ間のやりとりが発生するなど動作が複雑になりがち。
  • 事業者のプラットフォーム環境に依存するため制約が大きく、開発環境や検証、本番環境での差異も小さくない。
  • ゴールドラッシュ状態のため参入企業が増えているが、公開していきなり落ちてしまうアプリも珍しくない。

講演の中ではそのような問題に対処するための様々な工夫がデモと共に紹介され、開発者の涙ぐましい努力の跡がひしひしと伝わってくるような内容だった。回帰テストにはSeleniumIDEを利用していたそうで、一日中放っておくといつの間にか止まっていて問題が発生していたことに気づくことも有ったらしい。大手のソフトハウスとは異なり開発リソースが充分ではない小さな会社でも、それなりの工夫と知恵により上手くソーシャルアプリをリリースして運用できているという実例だと思う。

特に目新しい技法が紹介されたわけでもないのに、講演者の朴訥な(?)話しぶりが良く、質疑応答も活発に行われて参加者の関心を大いに集めたようだった。


その他、Visual Studio 2010やTeam Foundation Server 2010のテスト担当者向け機能を初めて実物で見て感心したとか、テスト設計コンテストへの応募資料が貼り出されていたものの、内容の質量ともにレベル差が激しくて、これなら電気や機械等の他のエンジニアリング業界とは程遠いねと思ったとか、皆でレビューを行えば仕様書の品質はきっと良くなるハズと楽観的に信じている人が多いらしいとか、いろいろな意味で学ぶことが多いイベントだった。また、次回も参加したいと思う。



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