賢いお金の使い方を学ぶとき

その昔、上司と出張した時の話。出先での打合せが終わり電車で帰ることになったのだが、切符を買う時になって上司が「特急列車に乗って帰ろう」と言い出した。乗車時間はそれほど長く無く、自分一人の時にはいつも普通電車に乗っており、わざわざ追加料金を出して特急に乗ることは無かったし、そもそも出張に関する旅費規定では特急料金は支給されないので自己負担になるはずだ。自分のお金を出して楽を出来るとはいえ、それは少々贅沢ではないのだろうか。

そんな不審そうな私の表情を読み取ったのか、特急に乗り座席についてから上司はこんな話をしてくれた。

普通列車に乗っても確実に座れるかどうか分からない。立ちっ放しだと、次の日に疲れが残るから仕事の効率も良くない。それなら少しくらいのお金を出してでも確実に座れる特急の方が楽だし、疲れを翌日に引きずることも無い。それに、座席に座って仕事の続きをしたり本を読んだりすることも出来る。少しのお金でそれに見合う効果が得られるのだから、お金は有意義に使った方が良い。

なるほど、そんなことまで考えてお金を使うのかと感心した記憶がある。ケチにお金を貯め込むわけでもなく、かと言って贅沢三昧にお金を浪費するわけでもなく、投資に見合うだけの効果を見極めた上でお金を使うよう意識し始めたのは、この頃からではないかと思う。少なくとも、それまでの人生では考えたことも無かったし、学生時代に学校で習った記憶もない。大人のお金の使い方はこんな所が違うのかと、初めて気がついたのかも知れない。

賢いお金の使い方は、稼ぐことよりずっと難しい。自分の財布の紐は固いのに会社の経費を贅沢に使う様子を見ていると人間としての浅ましさを感じてしまうし、将来の発展に向けた積極的な投資を出来ないリーダを見ているとその器の小ささを感じてしまう。新入社員が貰った給料を綺麗に使い果たしてしまうのもどうかと思うけど、逆に使い道が無いからと言ってひたすら貯金しているというのも如何なものかと思う。

他人のお金の使い方はなかなか分からないものだけど、ふとした機会にお金に対する姿勢が垣間見えてしまうことがある。そんな機会を生かして、自分のお金に対する考え方を振り返ってみるようにしている。