コスト削減という幻想

寒くなってきたのに暖房の効きが悪い。電力事情がひっ迫しているせいで節電を要請され、エアコンの設定温度が下げられた上に稼働時間も短縮されてしまったせいだ。もともと暑がりな私には結構な話しのはずだったが、電力会社の要求に対してあまりに生真面目に従っているせいか、室温が低く日中でも寒く感じられるくらいだ。

部屋の中で作業をしているのに寒くてかなわないと、防寒着を重ね着してパソコンに向かっている開発者を見ると、モノには限度というものがあるだろうと思ってしまう。こんな寒い所では作業の能率が上がらないし、体調を崩してしまいそうだ。実際、風邪をひく人が続出して、作業工程の見直しを余儀なくされているチームもあるらしい。こうなると、もはやジョークとしか思えない。

電力はやや特殊な事例かも知れないが、仕事場では何かとコスト削減を要求されることが多い。確かに無駄遣いは良くないし、無駄を省くという主旨は理解できるものの、なんせ近視眼的なコスト削減にはえらく熱心な人たちが数多いので、重箱の隅をつつきまくるようなコスト削減策が推奨されることが多い。曰く、コピー機にIDカード認証機能を追加して誰が何枚コピーしているかグラフで見える化しましょう、等々。

よく分からないのは、そうやって削減されたコストが一体どのように使われたのか?という点だ。例えば、工場のライン作業のように「コスト削減」が「利益増加」に直結しているのなら分かるけれど、開発部門にてコピー1枚をケチった効果がどう生かされているのか、誰も合理的な説明をしてくれなかったりする。コピー枚数を削減して喜んでいるのは、結局、コスト削減の旗を掲げている人だけというのが実情ではないのだろうか。

リストラも似たようなものだけど、コスト削減は実は簡単に出来たりする(社員のクビを切れば良いだけの話、コピー機を使わせない施策を取れば良いだけの話)。問題なのは、むしろ、そうやって確保できた原資を元にどうやって成長への投資を行うか?という点だと思う。将来に向けた成長へのビジョンを持っていないのに、ただ単にコスト削減だけを叫んでも、実質的な効果が見込めないのは明らかだろう。リストラを何度も繰り返す会社も、経費削減を訴え続ける担当者も、実は根っこの所では似たようなものだと冷ややかに見ている。

特に、開発業務は残業の連続になる。それがいいとは思わないが、開発が競争である以上、毎日定時退社とはいかないのが実情である。残業せざるを得ない実情に対する手を打たずに、いきなり空調を切るというやり方が本当に正しいのだろうか。開発者はマジメで責任感の高い人間が多いから、この状況でもがんばるだろう。でも体調を崩したら何もならない。

定時に空調が切られた:節電対策もほどほどにして欲しい: 組み込み技術者の単身赴任日記



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