これが日本のソフトウェア品質?

日経エレクトロニクス2010年9月20日号に、日本のソフトウェア品質に関するCusumano氏の寄稿記事が載っていた。Cusumano氏の著書は「ソフトウェア企業の競争戦略」しか読んだことが無いけれど、長年に渡ってビジネスの観点でソフトウェア業界をウォッチしている人だ。何か興味深い指摘をしているかも知れない。どんな分析をしているのだろうと思いつつ読み始めた。

日本のソフトウエア品質,世界はこう見ている
ソフトウエア企業の研究で著名なCusumano氏の寄稿
Michael A. Cusumano氏 ほか
米Massachusetts Institute of Technology

日経エレクトロニクス2010年9月20日号 | 日経 xTECH(クロステック)

記事では、下記の視点に基づいて各国のソフトウェア品質の現状が分析されている。

  • 適切な開発プロセスの選択方法
  • グローバルなソフトウェア設計チェーンの構築方法
  • プロジェクト体制とソフトウェア設計との関連のマネジメント
  • イノベーションと開発効率の両立

総評的な解説しか載っていないので、実際にどのような企業が分析対象になっているのか不明だけど、日本に関するコメントを読む限り、少々偏った調査対象が選ばれている印象を受けた。例えば、下記の指摘は確かにある一面を評価していると思うけど、開発現場に携わる立場としては少々違和感を覚える内容だ。「時間が無いから」という理由でレビューが省略されることは珍しくないし、深夜残業と休日出勤を続ければそれなりの品質が確保出来るのは当たり前のことだろう。

一方、米国ではこうした繰り返し型のプロセスの採用は約55%、日本では44%であった。

インドおよび日本のプロジェクトではデザイン・レビューを100%行っていたのに対し、欧米のプロジェクトでの実施率は77%であった。

パフォーマンスに関しては、日本のプロジェクトは世界の中で圧倒的に高い品質を示していた。

また、日本のプロジェクトは、コード行数(LOC)当たりの生産性が世界で最も高く、欧州は僅差で第2位、米国とインドは大きく離されていた。

下記の記載を読む限り、調査対象としては大企業が多かったらしい。確かに社会インフラを支える重要なソフトウェアであるけれど、ソフトウェアとしてはWebや組み込みなど他にもいろいろ有るはずだし、ピラミッド構造を成したIT業界特有の問題とか、IT土方と揶揄される過酷な労働現場に関しては一切記述がなかった。これでは分析が片手落ちと言われても仕方ない気がする。

日本企業の場合、メインフレーム向けのソフトウェアを開発することが多く、高い信頼性を求められるプロジェクトが比較的多かったとはいえ、日本と他国との間にあるこうした差異の大きさは驚きに値するものだった。

なお、日本製のソフトウェアがゲームを除き国際競争力を持たない点については、謎として残っているようだ。下手にイノベーションなんか起こす必要が無く、バグゼロのソフトなら万事円満に収まるという指摘はもっともだと思う。

日本についていえば、ソフトウェア開発における高い生産性と品質が、なぜ世界のソフトウェア業界での、より傑出した地位に繋がらなかったのかという謎が依然としてある。この問題は、我々の調査に回答を寄せた日本の大企業の開発文化に起因しているのだろう。

日本のソフトウェア開発プロジェクトは圧倒的に高い品質レベルを実現させてはいるが、その低いバグ発生率は、逆に開発スタイルが厳格すぎること、そして試行錯誤したりイノベーションに挑戦したりするよりも、欠陥ゼロの方が最大の関心事であることを暗示しているのかもしれない。

記事の期待度が高かっただけに、内容の充実度という意味では今ひとつだったように思う。下記の書籍の方がずっと面白い内容だったので、こちらの方を勧めておきたい。

ソフトウエア企業の競争戦略

ソフトウエア企業の競争戦略



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