人材育成としての研修を考える

日経ビジネス2010年8月23日号に、常石造船で知られるツネイシホールディングスの社内研修の様子が載っていた。マイケル・E・ポーターの「競争優位の戦略」を教材に、内容を要約し理論を自社に当てはめて提案を行うというものだ。その類の研修に慣れている人ばかりではないし、なんせ教科書は容易に理解出来るものではないので、受講者は大変な作業となる。

恐る恐る目次を開いたものの、コストリーダーシップ、価値連鎖、セグメント分析、コスト優位、無形の相互関係、水平戦略など目に入る言葉は初めて聞くものばかり。「オレは鉄をいじっている現場のオッチャンやぞ」。思わず財前常務は悲鳴を上げた。2007年6月のことである。そして、苦闘の日々が始まった。

日経BP SHOP|日経ビジネス2010年8月23日号

なぜそんな厳しく無謀な研修が必要になるのか?会社は存続しているし、取りあえず目先の仕事を片付けていれば業務は回るはずだ。しかし、トップの思いはそんな近視眼的なものではない。もっと長期的な視野で捉えた時に、組織を支える人材として何が必要となるのかを考えている。会社をこれからも維持、存続させるのに絶対的に不可欠なのは人材なのだ。

全社員の英知を結集しなければ、100年後の存続はおぼつかない。必要なのは自ら考え、動く社員。だからこそ、厳しい研修を課している。

日経BP SHOP|日経ビジネス2010年8月23日号

研修を受けた社員が実際の現場でどのように経験を生かし、業務改善を進めていったのか具体的な例も載っている。一つ高いレベルの視点で物事を捉えて考える習慣が付くと、問題の着眼点が違うし解決策も的確なものになるようだ。最初は研修内容に反発を覚えていた社員も「苦行」の研修で知識を学ぶと、いつの間にか専門用語を駆使した発言を行うようになる例も紹介されており興味深い。

資本があり、技術を持ち、顧客を抱える会社は確かに強いけれど、目まぐるしく変化する今の世の中でその強さはどこまで維持出来るか疑わしい。そんな状況でも、自ら動くことの出来る優れた人材がいる会社こそが、変化に対応して生き残っていくのではないだろうか。少なくとも、手間暇をかけて人を育てる会社は、社員をコストと見なしてリストラを繰り返す所とは対極に位置しているように見える。

研修が形骸化して何の効果も生み出していない状況が少なくない中、このような熱い研修が行われている様子には少々心惹かれるものを感じた。この本は読んだことが無かったけれど、自分自身で考える材料が得られそうなので読んでみようかと思っている。

競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか

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