品質を考える読書〜「技術にも品質がある」

モノ作りの品質というと、どうしても製造現場にフォーカスしたもの(品質管理)が多いけど、この本は開発現場での品質(品質工学)を取り上げている。品質工学を毛嫌いする人は少なくなく、知名度や普及度は今ひとつのような感じがする。でも、この本に難しい理屈は無く、品質工学の基本的な考え方やその必要性が平易な言葉で説明されており、初心者でも容易に読み進められるはずだ。

TQM活動は、生産分野から始まり経営分野へと広がりを見せているが、技術開発分野への展開はまだ不十分である。それは、技術そのものに対する理解がボトルネックになっているからである。品質工学は、そのボトルネックを克服し、品質を根本から改善するためのツールの一つである。どのような視点から技術を理解すべきか、製品をどう設計すべきかを追求する方法である。

実績データを活用して信頼性を予測する信頼性工学とは異なり、品質工学は、実績データが存在しない場合でも技術の信頼性を予測したい時に有効な方法である。例として、製品のばらつきを抑える考え方や、時間を掛けずに問題点を早期に見つけ出すための工夫などが紹介されているので、開発者として注意すべきポイントが良く分かる。

品質管理のイメージにいつまでも囚われていると、品質工学の本質は理解できない。潜んでいる問題に対してどうやって対処していくかを理解すれば、品質担当者の仕事ではなく、開発担当者がやるべき仕事と分かるはずだ。

1. 品質の管理:不良や問題点を見つけ出し修正する。問題対策。
2. 品質の改善:不良や問題の原因を追及し対策する。再発防止。
3. 体質の改善:不良や問題の発生前に兆候を見つけ出し、性質を改善する。未然防止。

ソフトウェアの話はあまり出てこないものの、再発防止よりも未然防止を重視するという視点で言えば、発生してしまったバグに対処するチェックリストよりも、その発生を未然に防ぐことに重点を置く、という形になるだろう。チェックリストだらけの現場は問題の本質に対応できていない、という指摘はもっともだ。発生してしまった問題の対処だけなら誰にでも出来る。しかし、問題の発生を事前に予測するには高いスキルが要求されるというわけだ。

未然防止で必要な資質は何か。問題の発生以前でのわずかな兆候を敏感に感じ取るセンスや、将来問題となるだろう課題を見出す想像力である。これが、作業の分業化・効率化を追求する考え方とは対極に位置する品質工学の発想である。

地味な本だけど、開発現場での豊富な経験が反映されている著者の主張には頷く箇所が多い。ソフトウェアのみならず、モノ作りの開発に携わる全ての人にお勧めしたい本だ。

技術にも品質がある―品質工学が生む革新的技術開発力

技術にも品質がある―品質工学が生む革新的技術開発力