ヒマな日の読書〜クラウド化する世界

クラウドという言葉に惹かれて読み始めたけれど、内容的には昨今流行のクラウドコンピューティングだけではなく、インターネット上で提供されるサービス全般に関する内容だった。話はコンピュータではなく、電力会社のサービスがどのようにして始まったかという歴史から始まる。各工場毎に発電機を設置して電力を供給していたが、工場の増加や拡大に伴ってメンテナンス負荷が増加し、それを嫌って一つの発電所に集約することによって、誰もが安価にサービスを利用できるようになり、しかも周波数等の規格統一によりサービスの利用形態が更に拡大していく様子が描かれている。

ITの利用も電力と同じで、現在は各PCにソフトを入れたりウイルス対策ソフトを入れたりバージョンアップの作業を行っているけれど、いずれそんな面倒なことは不要になり、ネットワークの先のサービスを簡単に使えるようになるというのが著者の主張。もちろん、こんなサービスは現在既にたくさん有って、検索エンジンやブログ、写真や動画の共有サービス、オンラインショッピングなんて充分にクラウド型のサービスだ。

電力サービスの歴史なんて知らなかったけれど、なるほど言われてみれば両者とも進化の過程は同じような道筋を辿っているような気がする。現在はローカルのリソースをフルに使わなければならない動画の編集や画像のレンダリングなども、いずれネットワーク先のサーバで処理してくれるようになるのだろうか。ネットワークがフルに活用できるのなら、実は手元のPCはシンクライアント程度の機能で充分なのかも知れない。(だからこそネットブックが流行るのだろう)

それは、何百キロも離れた、国の最果てどころか地球の裏側で行われている。あなたの直近のグーグル検索を処理したチップは、どこにあるのだろうか?そんなことはわからないし、気にする必要もない。机を照らす電球の電力がどこの発電所で作られたかを知る必要がないのとおなじことだ。

もちろん、このような流れは良い結果だけを生みだすとは限らない。仕事の機会はオフショアへ流出するし、仮に国内に留まるにしても賃金の低下は避けられない。まさに「フラット化する世界」だが、ネットワークにより世界は繋がってしまったのだ。技術の進歩に光り輝く一面があるのと同様、裏の暗黒面も同時に存在している。

しかし、ワールドワイドコンピュータが生みだす経済力が要因となって、ますます多くの経済分野で利益が劇的に増加し、技能のあるなしにかかわらず、労働者はソフトウェアに取って代わられ、知的労働が世界規模で取引され、企業がボランティア活動を集約して経済的利益を収奪している現状は、ユートピアとはほど遠いと思わざるを得ない。中産階級の弱体化は、極めて裕福な少数の人々、すなわちデジタルエリートと、暗い運命に直面している大多数の人々との分裂に拍車をかけている。ユーチューブ経済では、誰でもタダで遊べるが、利益を得るのはごく少数だけなのだ。

なかなか読み応えのある本でした。

クラウド化する世界~ビジネスモデル構築の大転換

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