景気はよくならない
年末年始の新聞や雑誌には、景気がいつ回復するかという点について、政治家やエコノミスト、評論家の人たちの予想が載っていた。回復まで1〜2年程度かかるという見方が多くて、「もう永遠に景気は良くなりません」と断言する人は皆無だった。世の中を明るい方向に持って行こうと努力しているのか、あるいは迂闊に本当のことは言えないので自制しているのだろうか。
でも、バブル経済が崩壊した90年頃も、同じような議論が出ていたように思う。曰く、景気回復までは数年かかるでしょう等々。でも、90年代を通じて景気は一向に回復せず、「失われた10年」という情けないレッテルを貼られて終わってしまった。あれほどたくさんの景気回復予想は一体何処へ行ってしまったのだろう。
どのような予想をしても良いとは思うけれど、今のような経済の急降下状態を予知できなかった人に、景気の回復を予測しろだなんて無茶な注文だと思う。例えば、1年前の日経ビジネスなどを読み直してみれば分かるけれど、景気が悪化すると予測する人はいても、トヨタが赤字に転落するなんて予測していた人は一人もいなかったのだ。景気悪化は予想できないけれど、景気回復だけは予想できるとでも言うのだろうか。
評論家のいい加減な景気予測に一喜一憂するよりも、そのような状況の中でどうやって生きていくべきか、サバイバルするための戦略を考えることの方がもっと重要だと思う。バブル再来のような景気回復はあり得ない、むしろ長期的にはさらに悪化していくのではないかと個人的には思っている。
現在活躍する「経済評論家」の中には、八〇年代末に、バブル経済を日本の実力だと評していた人が大勢います。私たちの社会は、「ズバリ聞く」のが好きな割には、予想を外した専門家には極めて寛容です。つまり、どうせ当たらないだろう、とわかっていながら、「ズバリ聞く」のです。
どうしてそんなことがまかり通っているのでしょうか。要するに、安心したいのでしょう。しかし「どうせ当たらないだろう」と内心で思っているわけですから、本当に安心できるわけがありません。とりあえず安心したい、ということなのかも知れません。ひょっとしたら「自分で考える」ことを回避したい、というだけなのかも知れません。
マクロ・日本経済からミクロ・あなた自身へ―村上龍Weekly Report
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