リストラという麻薬

リストラという言葉が普通に使われるようになったのはいつの頃からだろうか。少し前までは何か特殊な出来事のように思えたのだけど、リストラに踏み切る会社やリストラを経験した人が増えてくると、それほど特別な出来事のようにも思えず、ニュースでリストラの話題が取り上げられても、またやっているのかという麻痺した感覚すら覚えてしまう。

辞めるにしろ残るにしろ、自社内でリストラを経験した人がどの位の比率なのか見当も付かないが、一つ確実に言えるのは、リストラの現場というものはかなり壮絶ということだ。「辞めろ」「辞めない」という主張がぶつかって口論になるのは序の口だし、延々と行われる陰湿な説得工作や、流血沙汰の喧嘩すら起こることも有る。希望退職という名目ながらクビを宣告される社員は気の毒だし、会社の方針とは言え部下にクビを言い渡す中間管理職もこれまた惨めなものだ。リストラ経験の無い人には、なかなか想像しにくい場面だと思う。

そんな中、興味深いのは、リストラを行う会社は何度も繰り返し実施する確率が高いと言うことだ。確かに、リストラ直後は人件費という固定費が削減されるし、暗く沈みがちな社内の雰囲気を明るく盛り上げていこうという流れはあるし、一時的に業績は回復する(したように見える)のだけど、そのおかげで本来解決すべきであった問題の本質が残ったままになってしまい、数年後にはまた同じ問題に対処するために次のリストラ話が出てきたりする。本来ならリストラで確保したはずの原資を元に問題解決に当たるとか、新規事業へ参入すべきなのに、実際には何もアクションしない事の方が多い。これでは、会社を辞めて(或いは辞めさせられて)出て行った人に申し訳ないではないか。

リストラは、経営者にとって一度その劇的な効果を知ってしまうと容易に止められない麻薬のようなものだと思う。取り組むべき課題はたくさん有るし、やらなければならない事も分かっているのだけど、そんな困難な道を突き進むよりは、幾度も繰り返したリストラの方が手っ取り早いし、短期的な効果は確実だ。そんな安易な道を選ぶ経営者が多い限り、日本という国の未来は暗いと思っている。



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