人を育てるという責任

少々前の記事になるけれど、日経ビジネス2010年11月29日号にH&M(へネス・アンド・モーリッツ)の紹介が載っていた。スェーデンに拠点を置くH&Mユニクロ同様に、商品企画から販売まで自社で行う小売企業(SPA)で、全世界での売上は1兆2000億円、フルタイム従業員は54,476名という巨大な会社だ。

そんなH&Mを支える経営理念として、3つの基本姿勢が有るという。

1つは、リーダはどの部門でも常に自分の代わりになる存在を育てなくてはならない「NEXT ME」。次が非正規・正規などの最初の採用形態や配属先にこだわらない「背番号なし」。最後が、退社した社員が再入社して幹部に登用されることもある「出戻りOK」。

日経BP SHOP|日経ビジネス2010年11月29日号

入社時の「同期」とか、「新卒」「中途」という妙なこだわりが非常に多い日本の会社から見ると「背番号なし」はなかなか潔い考え方だと思うし、「出戻りOK」というのも一旦辞めた社員は「裏切り者」呼ばわりされる典型的な日本の会社からは考えられない制度かも知れない。(この辺は、社風によるところが大きいはずだが)

そんなオープンな社風はさておき、個人的には、人を育てるという「NEXT ME」の考え方に興味を惹かれた。「NEXT ME」については、このように説明されている。

現地の法人のトップから店長、管理部門のマネージャなど、H&Mの管理職が常に意識しなければならない「NEXT ME」。リーダーは自分の仕事をすべて任せられる人材を、自ら意識的に育てなくてはならず、それこそが高い評価につながる。

日経BP SHOP|日経ビジネス2010年11月29日号

人を育てるのは実はなかなか難しいことだ。学校の先生のように専門的に「人に教える」ことを学んだ人は別として、たぶん多くの人は「知識や経験を体系的に他人へ伝えること」には慣れていないはずだ。OJTという名目で仕事の雑用を押し付けられ、それを「教育の一環」と呼ばれた経験がある人や、正当な指導を受ける機会も無いままに、いつの間にか人を育成する立場に回された経験を持つ人は少なくないはずだ。

古典的な伝統芸能や職人芸なら「師匠の技を盗む」という形の知識伝承が許されるのだろうが、組織を成り立たせているのが人である以上、確固たる理念を持って組織的に後継者を育てていく義務が発生するのは当然とも言える。それなのに実際の会社の中では「部下の指導が適切に出来ないリーダ」や「自分の地位を守るためにわざと後継者を育てないリーダ」が存在するのは嘆かわしいと思う。

成果主義の元では、ややもすると「自分の手柄にすれば勝ち」という状況になりがちだけど、人の上に立つ立場にいるのなら、自分自身の仕事に責任を負う一方で、人材育成という面でも同じように責任を負うべきだろう。人を育てられない人間にリーダの資格は無いと思っている。

自分は成長せずに部下を育てるとなると、無意識に「自分の地位が脅かされる」と思ってしまう。そういう人は、若い人材が成長するうえでの障壁になりかねません。自分が成長して初めて部下が育つ。けれども、日本の人事制度で育った人には「後継者作りが仕事である」という意識が希薄です。ここが、私は企業競争力の大きな違いになっていると思います。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20101227/217758/



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