PMP受験体験記〜受験動機編

技術士情報工学)を取得した際の話は、以前に書いた。あれから9年が経過し、職場の環境も仕事の内容もすっかり変わってしまったけど、自己研鑽は地道に少しずつ進めている。今回は、その一環としてPMPを取得した際の経験を紹介したい。

主な受験動機は下記の通りだ。

  1. 技術だけでは仕事できないプロジェクト管理の立場になった
  2. 海外のプロジェクト管理者とスムーズに話が出来るようになりたかった
  3. PMP保持者と対等に話が出来るようになりたかった

1.に関して多くを語る必要は無いと思うけど、要するにそれだけ歳を取り、目の前の技術だけではなく、メンバが抱える課題もまとめて面倒を見る立場になったという訳だ(意味するところは分かりますね?)。自分ひとりの世界で満足するだけではなく、プロジェクトを率いて成功に導くというミッションが与えられた以上、それに相応しい知識を習得して一流の管理を行わねばならない。PMBOKのテキストを最初に開いたのは遥か昔のことだけど、その知識獲得と実務経験の証として、PMPを取得しておくのも悪くないと思ったのがそもそものきっかけである。

2.については説明が必要かも知れない。昔から海外の顧客を相手に仕事をする機会が多いのだが、その中で日本国内では(あるいは社内では)決して要求されない資料を要求されたり、データを求められることが有り、長年の謎だった。理由を周囲の人に聞いても誰も分からないとの返事。海外と日本の文化の差異という見解を聞いたことが有ったけど、国も会社も異なる顧客が同じ類の質問をしてくるのだから、何か理由が有るはずだ。その答えに辿り着いたのは、PMBOKのテキストを読んで理解した時のことだ。

そう、海外のパートナーは「プロジェクト管理」という視点で物事を把握してくるから、そこには「会社のルール」「個人の経験に基づく判断」の背後に、PMBOKの知識が存在しているのだ。自分の周囲にPMP所有者はもちろんのこと、PMBOKすら真面目に読んだことのない「自称」プロジェクト管理者ばかりだったので、その質問の意図を理解できないのは当然だった訳だ。

そんな訳でPMBOKの知識を一通り学んだ後のプロジェクト管理では、海外のパートナーと驚くほど話が通じるようになった。PMBOKの考え方をベースにすれば、先方が望むものは分かっているし、こちらも同じレベルの視点で回答すれば相手は直ぐに納得するし、話は簡単に片付いてしまう。「質問の意図が分からない」と首をひねる隣のプロジェクト管理者と少しだけ差をつけることが出来たのはPMBOKの知識のおかげだろう。

最後に3.に関しては、技術士取得の時と似ている。PMBOKの知識があれば仕事はスムーズに進むようになったのだけど、「PMBOKで言うところの...」なんていう説明をしていると、相手は当然のごとく私がPMP保持者だと誤解してくるようになる。「いやPMPは持っていない」という回答には、「以前は所有していたが、更新を放棄したのか?」と聞いてくる。「いやいやPMBOKを勉強しただけでPMPは最初から持っていないし、試験を受けたことすら無いのだ」と回答すると、仕事の話はそっちのけでPMP取得を勧めてくるようになってしまった。このプロジェクトが終わったら取得するよ、という言い訳も徐々に苦しくなってきたので、仕事の合間を見て学習に励み、ようやくPMPを取得したという訳だ。

もっとも、PMPの人気も一時期ほどではないようで、「今頃、PMP?」という辛辣なコメントを貰ったのも事実である(但し、PMP非保持者)。変化の激しい時代に、一昔前のPMBOKの知識だけで太刀打ちできるとも思えない。これは事実だろう。しかし、PMPの名称が入った名刺を貰えば、相手の力量が直ぐに把握できるし、共通の知識ベースで話を進められるという直接的なメリットも大きい。プロジェクトを成功に導くための条件として、PMPはあまり関係しないと思うけれど、プロジェクトを推し進めるのは結局のところ人間なのだ。その人と人との間の信頼関係の構築に役立つのであれば、PMPという資格も悪くないと思っている。

わたしがPMP試験について一番問題に感じているのは、じつはそれが知識を問う試験にすぎないことだ。以前から書いていることだが、能力とは知識や資質だけで決まるものではないと、わたしは考えている。個人の能力を構成する要素としては、知識・感覚(センス)・身体的スキル・創造性などがあり、これらをきちんとバランスし、かつ整合的・臨機応変に、組み合わせて活用できなければならない。だから、誰かの能力を評価するのはとても手間のかかる、難しい仕事なのである。これを、わずか数時間程度の、パソコンの前の応答だけで測ろうというのが、もともと無理なのだ。PMやPM補佐を10年近くやってきた者は、こうした矛盾点にそもそも違和感を感じるのだろう。

PMPの資格はほんとうに仕事の役に立つのか : タイム・コンサルタントの日誌から