改善活動を進めると収入が減ってしまう

ソフトウェア開発の現場では様々な作業が発生するけれど、コミット毎の自動ビルドや回帰テスト実行など、人間の手を介さずに実行できるものは出来るだけ自動化を図るようにしている。最近はJenkinsを始めとするCIツールや上手い使いこなし方などの情報も豊富に出まわってきており、作業効率化を積極的に推し進めようとする人の熱意には感動を覚えるほどだ。たぶん、ちまちまとした手作業を嫌う人は世の中に多いのだろう。(ワタシもその一人)

この辺の感覚は、普通に自動化ツールを使いこなしている現場では当たり前のことなのだけど、便利さを知らない人には、実はなかなか理解してもらえない類のものだったりする。なんせ、慣れた作業だから手作業でもスイスイと進められるし、操作に迷うことも失敗することも無いのだ。そんな「仕事の充実感」を覚える作業をわざわざ自動化するなんて、一体何の意味があるのさ?という訳だ。さらに喧しいケースだと「自動化を導入するコストと、手作業を続けるコストを比較した上で導入の判断をしたい」とか「自動化によるメリットをきちんと定量化しておきたい」などと言う反対意見が公然と出てきたりする。

導入に際して大きな予算が必要となるわけではないし、本を1冊読んだりネットで調べれば簡単に導入できることなのだから、そんなに仰々しく構える必要は無いし、実際に使ってみて効果を実感できなければ止めれば良いだけの話だ。たかがツールの導入一つに対して、なぜそれほど頑固に反対意見を並べるのか不思議で仕方がない。人の意識や習慣を変えることはつくづく難しいものだ。

開発現場の改善活動とは、そんな自動化を一例として様々な工夫で作業の効率化を図り、問題への対処を続けていくものだと思う。言うまでもなく、他社はそのようなツールの導入で作業の効率化を進めているはずだし、無駄な作業に時間と手間を費やす余裕など自分たちには無いはずだ。会社のビジネス展開を考えていく上で、改善を推し進めるというポジティブな姿勢は各個人でも必要不可欠と思う。

そんな考え方を熱く語っていたら、こんな事を言われたことがある。

仕事の進め方を改善すると作業時間が短くなるのですよね。すると残業時間が減って残業代も減ることになり、個人的には何のメリットも無いです。

「お前はそれでもプロの開発者のつもりなのか?」と思わず反論しそうになったけれど、彼の顔には「プロ云々の問題ではなくて、お金の問題です」と書かれている気がしたので、口をつぐんでしまった。残業代で稼ぐことが出来る年齢や立場なら、それでやり過ごすのも悪くはないのかとも思う。

しかし、そのような考え方で働き続けていくと、そんな働き方しか出来ない人間になってしまう気がする。問題意識を持って常日頃から新しいアイデアを求めて実践していく姿勢とは、言ってみれば小さな工夫の積み重ねのようなものだから、残業代が出なくなって初めて考え始めるようでは既に手遅れだと思う。少なくともアレコレと自分の頭で考えて工夫を積み重ねてきた人とは、かなりの差がついてしまっていることだろう。

改善を進めて、空いたリソースをより前向きな作業の方へ割り振るのはどうか?と彼には答えてはみたものの、どうせ面白くない作業を押し込まれるのだろうという警戒心が彼の表情から伺えた。開発者というい知的労働者を、労働時間というブルーカラー的な発想で管理し続ける限り、このような意識は容易には変えられないのではないかと思っている。